
――改訂版は、初演と同じ登場人物の20年後を描いている、ということでよいのでしょうか?
柴:ほぼ、そうですね。
――配役は柴さんが決めたんですか?
柴:はい、読み合わせして決めました。
土井:でもどっちがどっちの役をやってもあんまり違いはないでしょ?
柴:いやいや、土井さんが共産主義側のスパイで、龍さんが資本主義側のスパイっていう、この配役で読んだ時の方がしっくりきました。役というよりも、お二人のキャラクターに合ってるかどうかかもしれませんけど。
――二人の男の関係に、20年の歳月を感じる部分はありますか?
龍:やっぱり二人がちょっと仲良くなってる感じはします。 “もういいじゃん”みたいな。
――スパイという職業も、いま聞くとちょっとフィクション性を感じる部分もありますよね。
柴:台本にも出てきますけど、今聞くのって、それこそ産業スパイくらいですよね。
土井:つい最近もアメリカ側の科学者が国家機密を漏らしたなんてニュースが流れたくらいだから、実際にはいると思うけどね。ただ20年前のようには報道されなくなったかな。スパイを捕まえたってニュース、昔は華々しく報道されたからね。
龍:当時は東西の対立があって、各国が競って情報を奪う合戦をしてたからね。
柴:そういうのがニュースで流れたんですか?
土井:そうそう。
柴:へえー。
土井:日本でもゾルゲ事件(第二次世界大戦下、日本国内で旧ソ連のスパイ組織が諜報活動を行った事件)とかがあったけど、今はそういうことをできるだけ表に出さないよね。報道のされるものが変わって、今はそういう政治的ニュースより、殺人事件とか風俗的にセンセーショナルなほうがもてはやされるから。特に東西っていう対立極がなくなってからなんでも集約されてるというか、アメリカのグローバリズムで世界が覆われてるわけだから。
柴:なるほど。
――また、初演時と比べて、演劇周りの環境についての変化を感じるところはありますか?
土井:それはあるけどね。でもいつの時代にもあることで、そんなこといまさら。だから今はとてもいい時期だとか、ひどいなってこともないわけです。今、柴君始め、雨後のタケノコのように俊英たちがにょきにょき才能を伸ばし始めてるわけでしょ? それは希望の兆しなんだけど、じゃあ10年後20年後もその才能が磨かれて残ってるかと言われたら、そこまで読み切れないよね。やっぱり一瞬閃いて消えていった才能なんてごまんと観てきてるわけだから、僕たちは。消えちゃった人たちは忘却の彼方に行っちゃうわけだし。
柴:いっぱいいました? 20年で。
龍:そりゃあねぇ……。
土井:演出家でも俳優でも、それはあるわけだよ。その上で、僕はやっぱり希望をもちたいなと。僕は芝居しかできないし、芝居はいいなとやっぱり思うわけよ。
柴:よかった(笑)。龍さんは?
龍:僕もずっと芝居をやってきてはいるんだけど、ただこのくらいになってくるといろいろ見えてくるから、そんなに才能があるわけでもないし、儲かるわけでもないしな……なんて思ったりもします。でもそうは言っても、実際にはやめないと思うんだけど(笑)、でも僕が役者をやるよりも、若い人たちにお金を貸したり、場を提供したり、もっと僕がお手伝いできるようなことがあるんじゃないか、それで自分はもう退場した方がいいんじゃないかって思うこともあって。まあでも、人の舞台を観ると「ああ、あれ俺がやれば良かったな」って結局思ったりするんだけど(笑)。
柴:(笑)。20年前の30代のころには、そういう意識はなかったんですか?
龍:そりゃあねえ、30代のころはもう、主役しかやりたくないと思ってたし、主役をやるために龍昇企画をつくったくらいだから(笑)。
――最後に、演出家・柴幸男は、先輩お二人からみていかがですか?
土井:僕は1年前くらいに、オリザさんから“最近とみに才能を発揮している若手だ”って柴さんを紹介してもらって、そのあと2、3本作品を観てたんですよ。ただ、どんなに日常的な付き合いがある人でも、稽古場で共同作業すると一発で分かるわけ、基本的なことが。だからどうかなと思ったんだけど、今、稽古場に入って2、3週間経って、僕が了解できる範囲で述べるなら、柴さんはとてもニュートラルに生きてる人だなと思います。それをより表現の作業の中で有効に生かしてもらいたい。“柴さんよ、あらゆる権威に制約されず、好き勝手にやっていただきたい”って感じですね(笑)。
龍:僕は、土井さんに“柴さんて知ってる? お面白いんだよ”と教えてもらって、『四色の色鉛筆があれば』や『わが星』を観に行って、確かに面白いなと。稽古場に入ってからは、構えずにすっと入ってくるのがうまい人だなと思います。“ここはこういう感じのほうがいいですよねえ”なんて言われると、“うん、確かに”ってすんなり受け入れられる。しつらえなんかも面白いし、ワクワク感がかき立てられてますよ。
柴:ありがとうございます(笑)。初日までがんばります!
土井通肇:1937年生まれ。早稲田小劇場(現SCOT)の設立に参加。1986年元祖演劇乃素いき座創立。「日本語の中に内在する美意識
の検証と復権。
対話劇の再生と現代劇のリアリズムの探求」などをテーマに活動。1991年から平田オリザ作の「阿房列車」を上演し、今年19年目を迎えた。
龍昇:1952年生まれ。演劇団(現・流山児★事務所)に在団後、1985年龍昇企画設立。俳優兼プロジューサーとして活動。2005年から
「漱石プロ
ジェクト」として夏目漱石作品を舞台化。平田オリザ作品は、1999年「夫婦善哉」を上演、2007年「となりにいても一人」(帯広劇研)に出演した。
柴幸男:1982年生まれ。劇作家・演出家・ままごと主宰。青年団演出部所属。第2回仙台劇のまち戯曲賞を受賞。何気ない日常の機微を丁寧にすくいとる戯曲と、ループやサンプリングなど演劇外の発想を持ち込んだ演出が特徴。

